人生の裸形
エジプトのカイロに着いてから約2週間、イスラエル、ヨルダン、シリアを回った。
ピラミッド(エジプト)
中東の旅は暑い、とにかく暑い。明日どこへ行って何を見るか、どこで泊まるか。それを決めるだけでエネルギーを消耗する。自分の人生を考える気力も体力も吸い取られてしまう。これでは旅に出た目的を果たせない。まず暑さから逃れるためにトルコのイスタンブールへ行き、そこからオランダのアムステルダムまで一気に飛ぶことにした。
エジプトの壁画
トルコは西洋と東洋の文化の十字路といわれる国。歴史を学び始めたころから、ずっとあこがれていた。大学に入って初めて訪れた国でもあり、今回は2度目だ。
ボスポラス海峡を見下す丘の上に座り、頬に心地よい風を感じながら、行き交う商船を眺めた。みんな、生きるために働いているんだと思った。港へ行けば、少年が大きなカゴいっぱいに、ムール貝のピラフ詰めを入れて売り歩いている。市場では、「ドネル・ケバーブ」と呼ばれる肉を売るおじさんがいる。
そんな異国の人たちと触れ合うだけで旅を楽しめた時期もあった。でも今はもう、それでは満足できない。むしろ、イスタンブールの街を眺めていると、食べる物や着ている服、売っているものは、その土地その土地で違うけれど、生きるためにお金を稼いでいるという人生の裸形はどこへ行っても同じだと感じた。本質的には変わらない。目的を知らぬまま、生きるために生きている。そういうふうに見ると、目に飛び込んでくるものすべてが同じに見えた。
ボスポラス海峡(トルコ)