大学へ、そしてホスト、ギャンブル
高校卒業後、大学に進学。もともとただの優等生ではない。大学が始まっても、図書館より雀荘に通い、いつしかそこで働くようになった。
知り合った客から、ホストクラブに勤めてみないかと誘われた。金満女性の話し相手になるだけで、酒も飲めるし、小遣いももらえる。夢のような話に思えた。
だがホストとなって3カ月。女性たちの話を聞くほどに、金持ちと結婚し、裕福な生活を手に入れても、幸福ではない現実を見せつけられた。華やかで安楽な生活の陰には、決まって〈倦怠〉という毒が潜んでいた。女性たちは皆、自分では埋められない心の隙き間を埋めにここへ来ていた。幸せなら、そもそもこんな店に来るはずがないのだ。
ホストとして人気は上がり、金回りはよくなったが、半年で辞めた。歯の浮くようなお世辞は性に合わなかったし、金に物を言わせる女性にはついていけなかった。虚構、虚勢の世界にも嫌けが差していた。
男として、もっと真剣勝負の、身も焦がれるほど熱い世界に魂をゆだねてみたかった。
次に向かったのがギャンブルだった。麻雀の腕はめきめき上がり、学生麻雀選手権のブロック大会2位。地元ではかなりの打ち手として、名を知られるようになった。
上級者の麻雀は、殊に大金がかかると、虚虚実実の高度な心理戦となる。
「壮絶だったのは雀荘同士の対抗戦でした。100万以上のお金が動く試合に、店の代表として出たんです」
1手のミスで大枚が飛ぶ。牌を切る手にじっとり脂汗が絡む。息が苦しい。相手の手が読めない不安、焦燥から、つい?安全、安心?に手を伸ばしたくなる。
「でもそうやって心が弱いほうへ動くと、負けるんです」
ここ一番の勝負どころは、身を捨てなければ勝ちにいけない。素人は常にブレーキに足をかけ、保険を用意し、決断を保留し、今一時に燃焼できない。
極度の緊迫の中、勝負師たちの戦いは終わった。平井さんは勝ち残った。
「あんなスリリングな体験はありません。でも興奮の頂点が過ぎると、残るのは満足より、『終わってしまった』という虚脱感だったのです」
放心したように雨の中を1時間、傘もささずに寮に向かって歩き続けた。「何かが違う」と心の奥がささやいていた。