若き親鸞学徒たち|親鸞会 会員の声

『人生の根底(死)に無知だった』

東京 学生 松波真人(仮名)

 医師になりたい。

 現在は理工学部に籍をおいていますが、 元々は、 医学部を目指していました。 浪人もしていたため、 時間はありました。 そしていろいろなことを考えさせられました。

 予備校で 「医系小論文」 という講義があり、 臓器移植、 安楽死、 優生思想、 などについて考えさせられる機会がありました。 そこで大事にされたのは、 「答えはない、 だからよく考えることが大事」 ということでした。

 いちばん心に残ったのは、 「自分が脳死判定を受けて臓器移植をするという場合と、 自分の家族が脳死になった場合、 それぞれどう思うか」 という問いです。

 自分なら死んでもどうなってもいい、 と思えても、 家族がとなると、 そうは思えませんでした。

 まして脳死判定では、 脳は死んでいても、 まだ体は温かい。

 そんな状況で家族の死を受け入れられるか。

 自分の死と家族の死、 妙な矛盾を含む 「死」 という問題について、 考えさせられる問いでした。

 本来ならば、 現場で起きているこれらの問題を自らの頭で考えることで、 医学部への気持ちを強固なものにしていくのかもしれませんが、 私には、 曖昧な答えしか出ない、 そんなことで医師を目指してもいいのか、 釈然としない思いが残るだけでした。

 また、 今でも忘れられないのは、 浪人中の受験を控えた12月下旬のことです。

 小学校で一緒に野球をしていた1つ上の先輩の、 突然の訃報が届きました。

 その先輩とは、 小学校を卒業以来、 会うことはありませんでしたが、 甲子園に2度レギュラーとして出場し、 2度ともベスト4まで勝ち上がり、 将来はプロかと、 陰ながら応援していた人でした。

 それが、 突然頭が痛いと言って倒れ、 そのまま帰らぬ人となったそうです。

 突然の悲報に驚いたのはもちろんですが、 もっと驚いたものがありました。

 自分の心でした。

「1週間くらいは、 この先輩の死のことが頭から離れず、 自分も突然死ぬかもしれない」 と葬式では思いました。 しかし現実は、 翌日からいつもどおりに生活し、 少しも 「死」 のことは考えていない自分がいました。

 亡くなった先輩に申し訳ない。

 こんな自分が医師を目指していいのか。

 自分はこんなにも薄情者なのか。

 もともとのんきな性格とは思っていましたが、 これほどまでとは。

 自分でもよく分からない思いの整理がつくはずもなく、 煩悶が続くばかりでした。

 そうこうして大学に入学ました。

 しかしそこで私を待っていたのは、 「なぜ生きる」 「生命の尊厳」 をはっきりと示される、 親鸞聖人のみ教えでした。 「死」 という問題を真正面からとらえ、 その上で本当の幸福とは何かを、 論理的に明らかにされるお話に驚きました。

「死は万人の確実な未来なのだが、 誰もまじめに考えようとはしない。 考えたくないことだからであろう。 知人、 友人、 肉親などの突然の死にあって、 否応なしに考えさせられる時は、 身の震えるような不安と恐怖を覚えるが、 それはあくまでも一過性で、 あとはケロッとして、『どう生きるか』で心は埋めつくされる。 たとえ、 自分の死を100パーセント確実な未来と容認しても、 まだまだ後と先送りする」

 かつての自分の不明瞭な気持ちが、 的確な言葉となって教えられている。 とても驚きました。

「『自分の死』と思っていたのは、 しょせんは想像している死であり、 襲われるおそれのないオリの中の虎を見ているにすぎない」

「想像している自分の死」 と 「自分の大切な家族を失うこと」 のギャップは、 死をまじめに考えられなかったことにあったのだと知らされたのでした。

 もともと、 医師を目指していた理由は、 人の役に立つ仕事をしようと思ったからでした。

 最も人に喜んでもらえることとは、 最も苦しい状態の手助けをすること、 人間にとって最も苦しいことは 「死」 だと考え、 ならば医師になりたい、 と決めたのでした。 もし目の前に瀕死の人がいて、 何もできずにその人が亡くなるのをただ見ていることしかできないのは嫌だ、 とも思い、 選んだのが医学部への道でした。

 しかし、 人生の根底に無知であった私は、 その道への思いを貫くことはできなかったのです。

 真実を知らされた今、 生命の尊厳を知らされた親鸞学徒として、 かつて目指した道を再び歩み出す決意を致しました。

 再受験とはいえ、 回り道とは思っていません。

 大学で仏法と出遇い、 そして仏心(大きな慈悲の心)を体現した医師へと続く、 一本道です。


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